過去の不適切な医療行為が感染を拡大した
日本国内でこのようにC型肝炎ウイルスが蔓延してしまった最大の原因は、現在行われている献血血液のスクリーニングが導入される前、一九九二年以前に行われた輸血行為が指摘されており、その結果として、一○○万人の感染者を生んだという声もあります。
また、血液製剤「フィブリノゲン」などの投与が原因で、一九六○〜八○年代にかけて、日本人のC型肝炎ウイルスの感染者はさらに拡大しました。
こうした患者が集まり、「感染するかもしれないことを知っていたのに、適切な対策を取らなかった」として、国と製薬会社数社を相手に、損害賠償を求める訴訟も行われており、今後、こうした訴訟はさらに増加すると思われています。
そのほかの感染原因としては、予防接種における注射針の使い回し、出血をともなう歯科治療、鍼を使う民間療法など、過去の不適切な医療行為が大半を占めるといわれています。最近になって、腎臓病で人工透析を受けている患者のうち、一五〜二○%がC型肝炎ウイルスに感染していることも新たに判明しました。
さらには、若年者層の間で広まっている刺青、ピアスなどの行為も、血液の付着した針などの使い回しにより、新たな感染経路になるとして問題視されています。
このように、もはや国民病ともなりかねないといわれるC型肝炎に対して、厚生労働省では検査体制・治療体制の整備を急務としていますが、昨今では、肝硬変の原因として非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の存在が明らかになるなど、肝臓病の脅威は一向に衰える見通しがなく、日本人の多くがその危機に直面していることがわかってきました。
肝硬変、肝臓癌の原因となる油断のならないNASH
NASHとはその日本語での呼び名のとおり、飲酒量がさほど多くなく(アルコール摂取量が一日二○g以下。缶ビール一本、日本酒一合程度)、ウイルスなどほかの肝臓障害の原因がないにも関わらず、脂肪肝(三○%以上の肝細胞に脂肪が付着した状態)の発症に続いて、肝細胞が炎症から線維化を起こし、やがて肝硬変に至るというタイプの肝疾患です。
一九八○年代にアメリカの病理医が初めて報告し、日本では二○○一年の日本肝臓学会西部会における発表から、肝臓病の専門医の間で注目されるようになりました。
これまでの医学の常識では、過度のアルコール摂取やウイルス感染がなければ、脂肪肝になっても肝炎や肝硬変にはならない、といわれてきました。それだけに、脂肪肝とは単に食べすぎ・運動不足をしている証拠であり、病気のうちに入らないなどと鷹揚にかまえる人も多かったのですが、NASHの存在が明らかになったことで、今やそうした常識はくつがえったといえるでしょう。
アメリカでは、NASHの患者は人口の二〜三%といわれ、五○代前後の女性に多く、肥満、糖尿病、高脂血症が起因となって発生するといわれています。
日本での大規模な調査はまだありませんが、東京女子医大が発表したNASHの患者一一○人のデータでは、やはり五○〜六○代の女性に多くみられる一方、男性の場合は二○〜三○代で発症する割合が多いことも特徴といえるようです。そのほか、一○歳の女子がNASHと診断されたり、一六歳の男子はNASHからすでに肝硬変を起こしていた例も報告されています。昨今では、食生活の乱れ(過食、偏食)や運動不足により、肥満や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病が若年齢層に多くみられることとも、因果関係があるのかもしれません。
また、ここ数年で注目されるようになった病気であるために、NASHの治療法はいまだ確立されていないのが実情です。現時点で行われているのは、減量による脂肪肝の解消、高脂血症治療薬・血糖降下剤・肝庇護薬などの投与、ビタミンC・Eの投与、肝臓で活性酸素(細胞を傷つける毒性のある酸素)を発生させる鉄分を除去するための瀉血など。
しかし、これらの治療法はいずれも、肝細胞の線維化を直接的にストップさせるものではありません。
むしろ、体内に入った薬物成分の処理を行うのが肝臓であるところから、大量の薬の投与は薬物性肝疾患の温床となる可能性も否定できないでしょう。
今後、食事の不摂生、運動不足を積み重ねてきた若者の多くが、中年期以降に高脂血症や糖尿病を発症するにつれて、NASHの患者数も爆発的に増えるのではと懸念されています。
当然のことながら、それにともなって肝臓ガンの患者数も右肩上がりになる危険が大いにあるわけです。
Author : 謝 心範 2008-01-30