C型肝炎ウイルスに感染すると、C型急性肝炎患者さんの実に6~8割が慢性肝炎に移行すると言われ、30年あまりかけて進行し、
肝硬変となります。
肝硬変は一つの独立した「病気」と言うよりも、あらゆる慢性肝疾患の組織学的に進行した「病期」と言えると思います。特に
C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎から
肝硬変に移行した場合は、
肝硬変になって10年で約7割に肝臓がんが発生するとの報告があり、C型肝炎の患者さんにとって、
肝硬変に対する理解と
肝硬変に移行したあとのケアは最重要課題と言っていいでしょう。肝硬変は、なるべく早期に適切且つ定期的な診察・検査・治療をお受けになれば、現代医学と患者さんのご理解・ご協力により症状の改善や病状の進行をくい止めることが十分に可能な病気です。逆に放ったらかしにすると徐々に病状が進んでしまいますし、合併症なども出てきてしまいます。
肝硬変とは
肝硬変は肝小葉が広範に破壊されて、それに伴い線維化が増強されるために、肝臓の構造に改変をみる不可逆性の病変です。肝炎ウイルス(B型、C型)及びアルコールによる肝炎からの移行によるものが多数を占めます。また、肝硬変は中高年の男性に多くみられます。
病理
肝臓に炎症が持続すると肝実質の壊死が起こり、肝細胞の再生と線維化が繰り返され、やがて
肝硬変となります。
肝硬変の病理組織は小葉の改築、線維性隔壁、再生結節などがみられ、偽小葉が形成されます。この結果、門脈系の血流がうっ滞するため門脈圧亢進が生じ、食道静脈瘤(あるいは胃静脈瘤)の発生の原因となります。また、門脈がうっ滞すると胃の粘膜も充血し、出血が見られることもあります。
病期と重症度
肝硬変の病期は肝機能が保たれている代償期と、黄疸や腹水、脳症などが出現する非代償期にわけることができます。
また、肝硬変の重症度を判定する分類として、Child-Turcotte分類とPugh変法があります(下表参照)。これは肝臓の予備能の判定に使われます。たとえば、血清ビリルビンが1.0mg/dl、アルブミンが4.0g/dlで腹水や肝性脳症もなく栄養状態がいい
肝硬変の患者さんは、Child-Turcotte分類の「A」ということになります。
| |
A |
B |
C |
血清ビリルビン |
<2.0mg/dl |
2.0~3.0mg/dl |
3.0mg/dl< |
血清アルブミン |
>3.5g/dl |
3.0~3.5g/dl |
3.0g/dl |
腹水 |
(-) |
軽度、管理容易 |
中等度~高度 |
肝性脳症 |
(-) |
軽度(Ⅰ~6.0秒の延長)
|
昏睡(Ⅲ度以上) |
栄養状態 |
良好 |
中等度 |
不良 |
ブロトロンビン時間 |
4.0秒以上の延長 |
4.0~6.0秒の延長 |
6.0秒以上の延長 |
Child-Turcotte分類は上段5項目までです。Pugh変法は「栄養状態」の項目を、一番下にある「プロトロンビン時間」に変えたものです。
症状
症状は肝細胞の機能不全及び門脈圧の亢進を反映しており、自覚症状としては倦怠感・上腹部の鈍痛・膨満感・食欲不振など、また他覚症状としてはクモ状血管腫・女性化乳房・手掌紅斑・黄疸・腹水・浮腫・脾腫などが見られます。重症例では肝性昏睡や高度の黄疸・腹水が見られます(詳しくは「C型肝炎の症状」のコーナーをご覧下さい)。この中で、クモ状血管腫、女性化乳房、手掌紅斑はエストロゲンというホルモンが肝臓で代謝されず高エストロゲン血症となるために起こります(他に睾丸萎縮・無月経・体毛異常など)。
<コラム>
「手足のつり」について
肝硬変の患者さんでは手足がよくつる方がおられます。「こむら返り」とも呼ばれていますが、これは強い痛みを伴った不随意性の筋痙攣(筋収縮)で、肝硬変患者さんに比較的高頻度にみられます。肝硬変が進むと、筋肉に必要なアミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)が不足することによるものとされています。 |
血液検査
肝機能検査ではGOT、GPTなどの血清トランスアミナーゼ値が上昇するほか、肝合成能が低下してくると血清蛋白のアルブミンの低下やコレステロールの低下、コリンエステラーゼの低下がみられ、更に黄疸の原因であるビリルビンの上昇などをみとめるようになります。また、プロトロンビン時間やヘパプラスチンテスト等の凝固系検査の異常や、血小板をはじめとする汎血球減少もみられます(詳しくは「C型肝炎の検査 -血液検査-」のコーナーをご覧下さい)。
肝性脳症(肝性昏睡)の患者さんではアンモニア(NH3)の上昇が見られます。また、肝硬変では肝の糖代謝が低下していて、糖尿病の合併をきたすことがありますから、血糖の値にも注意が必要です。
画像診断
肝硬変患者さんに対する検査は血液検査はもちろん、腹部超音波検査(エコー)やCT検査などが行われます。特にエコー検査は肝臓がんの早期発見に最も有効な検査ですから、定期的にお受けになることをお奨めします(私は肝硬変の患者さんに対して、3ヶ月に一度はエコーをさせて頂くようにお願いしています)。
肝硬変における超音波検査では、腫瘍の有無の確認は勿論、肝表面の凹凸不整、肝内門脈の拡張、肝実質内のエコー分布の不均一などの肝臓の状態や、腹水・側副血行路(門脈圧亢進によって発生したバイパス)の有無等が観察されます。
CTやMRI検査では、肝臓の萎縮、変形、肝表面の不整、腹水、脾腫、側副血行路が観察されます。また、超音波検査で肝臓に異常な陰影が発見された場合、造影CTやMRIで異常影の確認とその質的診断、治療法の決定に使われます。
この他、肝シンチという検査があり、右葉萎縮、左葉の拡大、脾腫等が観察されますが、シンチグラムができる設備を備えた施設は限られていますので、中小規模の医院・病院でされることはあまりありません。
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
肝硬変の合併症に食道や胃の静脈瘤があります。また、胃炎や胃潰瘍の合併も多くみられます。特に静脈瘤は、一度破裂すると大量に出血(吐血・下血)し、生命を直接脅かします。また、たとえ止血に成功しても、肝機能が悪化し、肝不全や肝性昏睡、そして腎臓をはじめとする他の臓器の不全状態に至ることもあります。そこで、破裂する前に内視鏡で胃・食道の静脈瘤の有無を確認しておき、もし静脈瘤が確認されたら、破裂する可能性のあるものかどうかを判断する必要があります。ですから、肝硬変の患者さんは、たとえ自覚症状がなくても定期的な内視鏡検査をお受けになっておくことをお奨めします。なお、上部消化管造影検査(胃透視)は静脈瘤の観察には向いていません。
肝硬変の診断
医師が「肝硬変」と診断するためにはそれなりの根拠があります。慢性肝炎の患者さんの血液データや超音波検査でおおよその目安がつきますが、確定診断となると、どうしても肝生検が必要となります。肝臓の組織を一部採取して、特殊な染色を施した後、顕微鏡で観察するのです。
初期の肝硬変ではビリルビンやアルブミン、凝固系検査は正常域内のことが多く、またGOTやGPTも正常値を示すこともありますから、外来レベルでの肝硬変の診断は難しい面があります。外来診察で慢性肝炎から肝硬変への移行を疑う根拠となるものにはエコー所見の他、「ヒアルロン酸」などの線維化マーカー、「血小板」、そして「ICG」などの血液検査をあげることができます。
ヒアルロン酸については詳しくは「C型肝炎の検査 -血液検査-」のコーナーをご参照下さい。この値が上昇すると肝の線維化がすすんでいると捉えられます。ヒアルロン酸の値が200を超えると肝硬変の可能性が高いと言えます(カットオフ値130で肝硬変の診断効率が90%であったとするデータがあります(上野ら))。
血小板についても「C型肝炎の検査 -血液検査-」のコーナーでお話ししましたが、10万/μlまで減少すると肝硬変に至った可能性が高くなります。
ICGというのは「インドシアニングリーン」という色素のことで、ICGを肘静脈から体重1kgあたり0.5mgの量を投与し、投与前と15分後に採血し、ICGの血中停滞率を測定するというものです。注入されたICGは血中でタンパクと結合し肝臓に入ると、その多くは肝細胞に取り込まれ胆汁に排泄されます。このため、ICGの停滞率(15分値)は肝血流量を反映します。正常値は10%以下ですが、肝硬変になると、これが高値を示すようになります。
肝硬変と感染症
肝臓・脾臓・リンパ節・肺などで細菌や異物を貪食細胞が処理するしくみを「網内系」といいます。肝臓の類洞壁細胞にあるクッパー細胞(Kupffer細胞)は、肝の網内系を担当していますが、肝硬変ではその機能や数が低下しています。腸管からの血液は門脈を通って肝臓の類洞に入りますが、この門脈血には細菌などの異物が存在します。肝硬変ではこの処理が不十分となり、感染症を起こしやすいのです。また、門脈圧が上昇すると、側副血行路という肝を経由しないバイパスが出現し、全身に門脈血中の細菌(大腸菌など)が移行することも考えられます。
ですから、肝硬変を患われている患者さん(特に非代償性肝硬変)は、健常な方より細菌にさらされやすいと考えておかなければならないと思います。肺炎などの感染症にならないように、ちょっとした微熱が続くときでも「風邪だろう」などとほったらかしにせずに、医師に診てもらっておくことをお奨めします。
腹水
(非代償性)肝硬変の患者さんの症状の一つに「腹水(ascites)」があります。腹水とは、生理的限界を超えて腹腔内に貯留した液体または液体が貯留した状態をいいます(腹腔内には生理的にも約40ml程度の体液が存在する)。
腹水の原因
肝硬変における腹水の原因は、
1)血漿浸透圧の低下
2)門脈圧の亢進
の2つにわけることができます。非代償性肝硬変では肝の合成能の低下により、タンパク(アルブミン)が低下し、血漿浸透圧が低下します。このため、血管内の水分が血管外へ侵出してしますのです。一方、門脈圧や肝表面のリンパ流の圧が高くなると、リンパ液がリンパ管外に漏出します。
腹水の症状と診断
腹水が貯留すると、その症状として腹部が徐々に膨隆し、急激に体重が増加したり、尿量の減少などを自覚します。
医師は打診、触診で腹水の存在を疑い、腹部超音波検査(エコー)やCT検査で診断します。また、腹水の性状を調べるため、腹水穿刺を行います。なお、腹水は肝硬変以外でも色々な病気で見られます。腹水の性状は「濾出液」と「滲出液」の2種類に分けることができ、肝硬変による腹水は濾出性です。
腹水の治療
肝硬変による腹水に対する治療には以下のようなものが考えられます。
1)安静・禁酒
入院安静だけで改善することもあるのです。これがまず一番大切です。
2)塩分(Na;ナトリウム)の制限
出来れば一日5g以下(小さじ1杯程度)とします。
3)水分の制限
出来れば一日500ml以内。Naの低下がなければ無理して厳しく制限する必要はありません。
4)利尿剤の投与
アルダクトンA(スピロノラクトン)やラシックス(フロセミド)など。ただし、アルダクトンAは効果発現まで2~3日を要するので注意が必要です。
5)アルブミン製剤の投与
血清アルブミンが2.5g/dl以下の場合は、アルブミン製剤の点滴静注をおこなうことがあります。目標はアルブミン値3.5g/dl、少なくとも2.5~3g/dlを維持します。しかし、投与の適応は厳しく、限りある血液製剤ですから、安易なアルブミンの投与は慎むべきでしょう。
6)腹水穿刺
貯留量によって違いますが、通常1~1.5リットルを排液します。大量の貯留の場合は、アルブミン静注下に4リットル以上/日の排液をおこなう場合もあります。
7)門脈圧亢進の治療
・β遮断薬(プロプラノロールなど)の投与
心収縮力を抑制、心拍数を低減し、門脈流入血流量
を減少させ、門脈圧を低下させます。
また、側副血行路の血流量も減少させます。
・TIPS(経頚静脈的肝内門脈肝静脈短絡術)
これは食道静脈瘤の治療の一つです。
肝静脈から門脈を穿刺し、メタリックステントで
短絡(シャント)部分を拡張させる方法です。
8)腹水濃縮再注入法
腹水を穿刺排液し、「濾過 + 濃縮」し、静脈内へ注入します。(自分の蛋白質を再利用する)。
(注)上記方法の中のTIPSや腹水濃縮再注入法は、難治性の腹水に対する治療法で、大きな専門病院でしか行われていません。
肝硬変と糖尿病
肝硬変の患者さんを診療しておりますと、糖尿病を合併されている患者さんをよくお見かけします。ブドウ糖は肝臓に取り込まれ、体のエネルギー源となります。しかし肝機能が悪くなると、ブドウ糖の処理機能が低下し、糖代謝の異常をきたす場合があります。
肝硬変と糖尿病の合併と言いましても、もともと糖尿病があって慢性ウイルス性肝炎から肝硬変になられた方(糖尿病 + 肝硬変)と、糖尿病ではなかったが肝硬変によって耐糖能異常となった方(肝硬変 → 耐糖能異常)がおられます。なお、肝硬変も糖尿病も種々の合併症を引き起こす病態であり、特に感染症に弱くなりますから、適正な血糖を保つようにきちんとしたコントロールが必要です。
糖尿病 + 肝硬変
もともと糖尿病があって肝硬変となられた方は、体内のインスリンの分泌は低下していて、空腹時血糖が高い場合が多いようです。この場合、通常糖尿病の治療が優先されます。食事は糖尿病食を中心とします。肝硬変が進みますと、血糖コントロールがsevereになることが多く、インスリンが第一選択となります。
肝硬変 → 耐糖能異常
糖尿病ではなかったが肝硬変によって耐糖能異常となった方は、空腹時血糖は正常で、食後高血糖が持続し、インスリンも高値となる場合が多いようです。インスリンは肝臓で代謝されますが、肝硬変になると代謝機能が低下します。また、門脈圧亢進症の方はインスリンが肝臓を通らずに発達した短絡路を通って大循環に入るため、インスリンが高値となりやすいのです。一方、肝硬変が進むと、抹消組織でインスリンの感受性が低下しています。
肝硬変によって引き起こされた糖尿病(二次性糖尿病)ですから原則的にはインスリンは投与されません。食事はよほど肝臓の状態が悪くない限り、糖尿病の治療を優先とし、高カロリー食は控えます。
BCAA製剤と糖尿病治療
肝硬変が進んでアンモニアが高くなると(肝性脳症)、BCAA製剤(アミノレバンENなど)が使われることがあります。アミノレバンENは1包50gで、210kcalのエネルギー量があり、これを一日2~3包服用しますから、これだけでも相当量のエネルギー摂取となります。当然血糖値にも反映されてきますから、血糖値や尿糖の変化など慎重に観察する必要があります。
肝硬変と糖尿病の内服治療薬
糖尿病の内服治療薬は主にSU剤(スルフォニル尿素剤。グリミクロン、ダオニール、オイグルコンなど)が使われることが多いと思います。内服治療薬は適切な食事療法や運動療法でも血糖のコントロールがつかない場合の糖尿病の患者さんに用いられています。
SU剤は膵臓(ラ氏島β細胞)からのインスリンの分泌を促進したり、分泌されたインスリンの作用を増強させる作用を有します。SU剤は肝臓で代謝されるため、進行した肝硬変の患者さんでは薬物動態(血中濃度)や副作用に注意が必要です。
なお、使われる頻度は非常に低いと思いますが、BG剤(ビグアナイド剤。グリコラン、メルビンなど)という内服治療薬があります。しかし、これは乳酸アシドーシスを誘発しますので、注意が必要です。
2007-12-27